トラウマが原因の腰痛:振動すると改善するTRE(Trauma Releasing Technique)

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腰痛の原因がストレスと言われて、よけいにストレスがたまり腰痛になる

つらいつらい腰痛を病院で診てもらって、「問題ありませんので、おそらく、ストレスでしょうね」と診断された時の、お互いの間に流れるなんとも言えない空気がありますね。確かにドクターにとっても画像診断で見て何もなければ、異常がないですから、そう診断せざるを得えません。

かといって、ストレスが原因と言われると、「そういえば、最近、残業が多いしな」「たしかに上司とうまくいってないな」なんて、思い浮かべてみるものです。

痛みがある自分にとっては、原因がわからないと不安ですし、たとえ、ストレスが原因であったとしても、雲をつかむようなハッキリしない要素では対策さえできません。とにかく、なんでもいいから早く痛いのをなんとかして欲しいのです。

ここでは、

  • ストレスが本当に痛みの原因になりうるのか
  • ストレス性の腰痛を解消する方法

について、腰痛に有効なTREというメソッドを実際に行った経験を通してお伝えします。

ストレスが原因で腰痛になるのか?

大きなストレスが慢性痛と関係していることは、調査で明らかになっています。∗1 2017年ノルウェーのSiqvelandらが調査した結果では、慢性疼痛患者において、災害や事故などに起因する非意図的な心的ストレスを受けた人、犯罪や紛争などによる意図的な心的ストレスを受けた人、そしてPTSD患者において、疼痛レベルと疼痛治療の結果にどの影響するかを調べています。

調査では、慢性的な痛みを持つ人の多くに心的外傷を持つ人が見られ、大きなストレス経験が痛みと関連することを示しています。

ストレスは、いかにして腰痛を生むのか?

大きなストレスが慢性的な痛みに発展する原因は、ストレスによる筋肉の緊張が残ったままだからです。

どんなふうにストレスが筋肉を緊張させるかは、動物の行動を見るとわかります。例えば、猫が攻撃にそなえる時の体勢は、背中を丸めて首をすくめます。これは、大切な内臓があるお腹を守ることと、首を噛まれないようにするためです。この時、筋肉を緊張させることで、ストレッサーである外敵から逃げるエネルギーを内部に集中させます。

戦闘態勢でお腹をひっこめる猫

人間の場合は、戦うか・逃げるかの場面で重要になるのは、腰にある大腰筋です。トラウマになるようなショックや、大きなストレスを受けると時、大腰筋は下腹部を守るために収縮します。これらの筋肉は、背中・骨盤、そして、脚を連携させて、危険な状態が終わるまで収縮した状態が続きます。こうして、ふだん以上の大きなエネルギーが、危険な状態が過ぎ去るまで温存されることになります。

大腰筋は、股関節を曲げたりするときに使う筋肉で、お腹の奥にあり、骨盤の前を通って太ももの内側にくっついています。大腰筋が硬くちぢんでしまうと本来の機能を失い、体のバランスを崩すことになります。バランスが崩れた状態でいると、関節などの機能も正しく動かないため、筋肉の故障につながります。その結果、痛みが発生することになります。

問題はストレスでなく、ストレスを解放する方法を忘れたこと

恐怖記憶は危険の予知・回避に必要な能力です。小さな子どもが、熱いストーブに手をかざしてビックリした記憶は、2度と同じ経験をしないようにしてくれます。私たちの人類は、神経学的に、生物学的に、生理学的にも、こうしたストレス経験をとおして、強く耐えて生き延び、これからも、進化していくように作られています。問題は、ストレスを解消できないことです。

動物の場合、危険が過ぎ去りふだんの状態に戻る時、“震える”ことによって素早くリラックスした状態へリセットします。サバンナでライオンに追いかけられたシマウマは、命からがら逃げたあと、茂みに入って体をブルブルさせるのはこのためです。

動物は逃げた後に体を振動させてストレス発散する

私たちが小さかった頃は、とても怖い経験や驚いた時には、体がすくみブルブルさせることがあったと思います。ところが、この生まれつき持ったストレス発散方法は、やがて、大人になることで失っていきます。“震える”という行為が、怖がっている、緊張してるといった、社会的にマイナス評価につながるため、やがて、震えることをやめてしまうのです。

子育ての環境も影響します。子どもはストレスを感じた時、泣きながら体を震わせますが、「お母さんは、静かで泣かないのが好きよ」「今日は、泣かないなんて立派ね!」といった言葉が、親に好かれる子どもになるために、震えることを制限することにもつながるのです。こうして、小さな頃は備えていたストレス解消方法を捨て、緊張・興奮したままの毎日を過ごすようになり、やがて、心身の不調へとつながるのです。

緊張した筋肉を振動させるTRE®(Tension Releasing Exercises)

では、緊張エネルギーをため込んだままの大腰筋を解放するには、どうしたらよいでしょうか?とてもシンプルです。ふたたび、大腰筋を震えさせてあげるだけです。でも、どうやって震えさせたらいいのか忘れてますから、思い出す必要があります。震えを誘発する方法には、野口整体やバイオエナジェティックスなどの手法がありますが、今回は、私が経験している方法としてTRE®をご紹介します。

TRE®は(Tension Releasing Exercises)では、7つの簡単なエクササイズによって大腰筋を緩めます。その結果、本来持っている自然治癒メカニズムである震える機能を回復させていきます。それも、安全に簡単にです。

この方法については、私が教える立場でないので割愛しますが、認定プロバイダーさんが全国にいらっしゃるので、ご相談なさるか、書籍が出ていますので、ご覧になってください。個人的なセッションもありますが、まずはどんなものか知りたいとう方は、私のように体験ワークショップに参加されるのがいいですよ。

実際に参加してみたら、参加者のみんなに体感が出ていた

私は大阪市内で開催された体験ワークショップに参加しました。事前に振動が起こるとどんな風になるのかは調べてみたのですが、実際に体が振動をはじめると不思議な感覚におそわれました。

担当してくださったインストラクターが言うには、「事故や手術を受けた方に見られる特有の振動でした」とのことでした。ただ震えるだけなのですが、震えはじめに、なんだか恐怖心が襲ってくるんです。何に対して怖かったのかは分かりませんが、恐怖心がドドドド・・と打ちよせました。同じく参加者だった臨床心理士さんに質問すると、その方も、「恐怖心みたいなのがありました」とのことでした。

もっとも驚いたのは、終わったあとの体の軽さと、見える景色が明るくなったことです。これは、頚椎の矯正を受けた時と同じ感じで、目に入る光が増えるのと同じ感覚です。さらに驚いたのは、参加者の表情がやわらかくなったことです。

ストレスの問題を抱える方から、特に問題はないものの勉強のために参加された方も、みんな表情が明るく、やわらかくなってました。ある女性は声のトーンが低くなって、とても落ち着いた、いい声になってました。全体で2時間にわたるワークショップでした。

私は腰痛を完治させてたので、腰痛への効果は分かりませんでしたが、腰痛だけでなく、便秘、むくみにも改善が期待できるそうです。私がTRE®を知ったのは病院の掲示板でした。理論ベースで判断されるお医者さんがTRE®を現場でも活用されていたので、より信頼できました。佐々木みのり先生によるTRE®についての説明をご覧ください。

まとめ

  • ストレスが原因となって起きる腰痛は存在する
  • 腰痛の原因は、大腰筋が緊張したままになり、体の機能性が低下するため
  • 大腰筋の緊張を解放するにはTRE®によるエクササイズが有効

もちろん、ストレスだけが腰痛などの痛みの原因ではありません。そのため、腰痛が長引く時は、内臓の病気などがないか疑う必要があります。でも、もしストレスが原因となっている場合はTRE®を試す価値はあります。

痛みは複雑で「はい、これするだけ!」と簡単に答えがあるわけではないですが、TRE®や筋力トレーニングなど組み合わせることで、ストレスが少ない、健康的な、理想の自分にさらに近づけると思います。なにより、原因がハッキリすることで不安もなくなり、自分と将来への自信へもつながるはずです。私は10年以上、痛みで悩みました。TRE®が、みなさんの解決への近道になるとうれしいです。

参考文献
∗1  J. Siqveland et al.
Eur J Psychotraumatol. 2017; 8(1): 1375337.
Post-traumatic stress disorder moderates the relationship between trauma exposure and chronic pain

∗2 デイヴィッド・バーセリ  PHP研究所 (2012)
人生を変えるトラウマ解放エクササイズ

∗3 David Berceli,Ph.D TFA JAPAN
Tension Releasing Exercises

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